カンボジアで伝統織物の復興に取り組むクメール伝統織物研究所(IKTT)岩本みどりさんにカンボジアの伝統織物と現地での活動を3回に分けて紹介してもらいました。
今回が2回目です。
2.IKTT創立者 森本喜久男
※IKTT…Innovation of Khmer Traditional Textiles organization
参考:アジア民族造形学会2023総会/大会で報告された動画(15分)です。こちらもご覧下さい。
◎学術発表「クメール伝統織りの復興を進める織りの村からの報告」(2023/08/27)
※画像をクリックすると拡大表示します。
2.IKTT創立者 森本喜久男
「皆が幸せに暮らせる環境を作ることが僕の仕事」
IKTTには様々な方が訪れる。京セラ創業者である稲盛和夫さんもその一人。森本に会いに伝統の森に訪問されたそうだ。
「伝統の森にはこれまでいろんな方に来て頂いております。経営の神様と言われる稲盛和夫さんも、そのお一人。私の本を読まれ、興味をお持ちいただき、現場を訪ねたいと思われた。お忙しい中で訪ねていただいたそのお心が嬉しく、とても励ましを頂きました。感謝」
(森本喜久男FBより)
稲盛さんが来られた事で、経営者の方々が伝統の森に来るようになった。ある日のこと、伝統の森を訪れた経営者団体の一人が工房見学を一通り終えた後、森本に質問した。
「こんなに集中力を使う仕事なのに、このような賑やかな場所で集中力を切らさずに仕事ができるのがとても不思議です」
お客様はもちろんの事、側で聞いていた私自身も森本の答えが気になった。
「彼女達は職人である前に、母親なんだ。母親にとって子供達の声は”雑音”ではないんだよ。」
その場にいた皆が、そのシンプルな答えに一瞬にして引き込まれた。続けて森本は、子供達の声があるからこそ安心できる。そして自然があり、織物を作る音があり、鶏や鳥の声がある。そんな彼女達にとって当たり前の環境の中だからこそ、安心感が生まれ仕事に集中できる。だからこそ、「良い布」が作れるんだと付け加えた。
伝統の森の工房には、職人達以外にも多くの子供達がいる。ハンモックで寝ている子供、グループで遊んでいる子供、工房やその周りにはあちらこちらに子供達の気配や楽しげに遊ぶ声が響き渡っている。また、職人達の仕事はとても繊細であり、当たり前のように集中力が必要になってくる。その証拠にIKTTのマスターアーティザンである括り手のキム スレン(KIM SRENG)は、この仕事はまるで瞑想をしているようだと説明している。また、若手トップの職人であるソイ ソキアン(SOY SOKIANG)は、子供の具合が悪い時などは特に集中できない。そんな時は手を休めて、少しリラックスしてから、また括り始めると言っていたことがある。まさに森本が説明した通りだった。なぜ森本はこの答えにたどり着いたのだろう。
森本は「経営者」である前に、「職人」だった。1948年、京都にて誕生した森本は、1971年、京都の工房にて手描き友禅の職人の道を歩み始めた。1975年には独立し自身の工房を立ち上げるまでになっている。つまり、自身の経験から職人にとって良い作品を作るためには何が重要なのかを理解していたのだと思う。織物を作るには材料や道具がもちろん必要。そして、そのクオリティーも重要になってくる。しかし、実際にそれを扱うのは人間だ。その人間からモノに命が吹き込まれる。
「皆が幸せに暮らせる環境を作ることが僕の仕事」
そんな森本だからこそ、この言葉が出てきたのだと思っている。技術や感性、美意識以前の、モノつくりの原点を表しているような言葉。
1996年に設立されたIKTTは今年で27年。森本が亡くなってからは5年が過ぎた。様々な困難はあったが、なんとかIKTTを継続することができている。そして設立以来、IKTTの布は日々進化し、世界でもトップのクオリティーと言っていただける「良い布」を作り続けている。きっと、贅沢はできないまでも、職人達なりの幸せな環境がここにあるのだろう。私の中に深く残った森本のこの言葉は、IKTTを前に進めていく上での大切な言葉となっている。
今回は、数年ではありますが、森本のアシスタントであり近くで見てきた者からの個人的な視点で「IKTT創立者 森本喜久男」を書かせていただきました。
森本喜久男の経歴はIKTTのwebサイトからご覧いただけます。
IKTT Website :http://www.iktt.org/
(IKTTゼネラルマネージャー 岩本みどり)
紹介:森本喜久男さん最後の講演 Kikuo MORIMOTO's last speech 20170614
2017年6月14日、アクロス福岡で開催された森本喜久男・特別講演会「手の記
憶」の映像です。これが森本さんの最後の講演となりました。
その後、森本さんは体調を崩し7月3日に亡くなりました。
「講演では、最後の力を振り絞って、静かな口調ながら熱のこもった語りを聞かせてくれた。在りし日の森本さんを偲んでいただければうれしく思います。(高世 仁氏)」。
▼Youtubeでの映像
AEFA2023大会に参加した方々から好評をいただきました。それを反映して、事務局で実施したアンケート結果では展示部門、学術部門でトップの好成績を獲得しています。また、ツアーを計画してほしいという声も多々ありました。