※画像をクリックすると拡大表示します。
※サーバートラブルで消えてしまった為再掲しました。
ちょっと番外編です。
織物の保管ケースの中を探していたら偶然この胸飾りが目に止まりました。
とても素敵な胸飾りなので是非紹介したいと思いアップしました。
以前も書いたようにインドの布は詳しくありません。とは言っても何回かは織物を探しに行ったことがあります。インドは広大で奥も深いのでのめり込むと危険だと思い、あまり深入りしないようにしています。
インドの染織はさほど多くは見ていませんがその中ではパンジャーラの織物は一番好きなもの。
この胸飾りは20年近く前にニューデリーで見つけました。
パンジャーラについては移動している人達という事ぐらいしかわからず、どこに行けば彼らに会えるのか調べて見たいと思ったこともありましたがそのままになっています。
以前紹介した岩立広子さんの「インド 大地の布―岩立広子コレクション」を見返したら記載がありました。
「交易の民、バンジャーラの手仕事」という項。12ページ割かれており多くの写真が掲載されています。英文でThe Banjara People とあります。
「バンジャーラの人々」という紹介文の中で下記記載がありました。
「カルナータカ、マハーラーシュトラ、アーンドラ・プラデーシュの各州(※南部インド)には、昔は交易を職業とした人々が政府から与えられた僻地で農業や家畜を飼って暮らしている。彼らは、かつてラージャスターン、グジャラート、マディヤ・プラデーシュの州(※北西部インド)から小麦を牛車に載せて南インドへ運び、海岸の塩と交換、再び戻る交易人だった。」とあります。
100~150年前に定住を余儀なくされたとのこと。
「…北の文化を南に伝搬する役割を果たした。刺繍の宝庫、北西インドの針仕事は、バンジャーラの人々の手で南の地方に運ばれた。…バンジャーラというのは小麦を運ぶ人の意味だ、という。」とあります。
探せばもう少しパンジャーラの布類が手元にあると思いますが、とりあえず使っている小袋の写真も掲載しました。
「インド 大地の布」の中にも同じものの写真が掲載されています。胸飾りについてはありませんでしたが、女性の衣裳など素敵なものの写真が沢山掲載されています。
この小袋については下記記載があります。
土台の布が見えないくらい
刺繍や刺子でうめ尽くされた小袋は、
」嗜好品の檳榔樹(びんろうじゅ)の実などを入れる袋で、
バンジャーラの男たちが婚礼時に使う。
愛する男たちのために、女たちがいかに精魂を込め、
無心で針を運んだことだろう。
形もデザインも多彩で、
それぞれに、いとしい美しさがあふれている。
…「インド 大地の布」より
写真の胸飾りにあるように、深く暗い赤とオレンジ色が強い印象を受けるバンジャーラの織物は、岩立さんが書いているように刺し子と刺繍で埋め尽くされています。
糸で線を描くように刺繍するものを刺し子と呼びます。衣服の補強や保温のために重ねた布を刺し縫いたのが始まりのようです。
日本でも青森県津軽の「こぎん刺し」、青森県南部の「菱刺し」、山形県の「庄内刺し子」は日本三大刺し子と呼ばれています。
装飾の為だけでは無く長く使うための工夫が込められています。
写真では正確に色合いがわからないかも知れませんが、この色合いは強いインドの日差しの下で、長く使われたことにより作られた色合いでしょう。
30年近く前、彼らをガダグ地区カルサープル村に訪ねた岩立さんは「彼はバンジャーラと呼ばれるのを嫌い、一市民と呼ばれたいと言った。奥さんもサリーを着ているそうだ。」と記載しています。
交易の民であった彼らによって、北の文化が南に運ばれ、北の刺繍技術が南に伝搬したという「文化の交易の民」でもあった彼らは、他国でもそうであるようにインドのカーストの中で差別されてきたことがわかります。
「インド 大地の布」の中にも女性の民族衣装の写真がありますが、バンジャーラとわからないようにサリーを着るのでしょう。
岩立さんが訪問してから30年たっています。
今のインドで彼らはどうなっているのでしょう。
バンジャーラとわからないように一市民の中に埋もれてしまったのか、それとも復権したのでしょうか。
※染織の専門家では無いため、学術的に正確では無い場合があります。ご了解下さい。
(アジア民族造形学会会員 相葉康之)
参考書籍:以前にも紹介しましたが再掲します。
◎「インド 大地の布―岩立広子コレクション」
著者:岩立 広子
出版社:求龍堂
発売日:2007/10/1
大型本:207ページ
定価:6,800円+税
参考:紀伊國屋書店ウェブストア
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784763007278